タジオ幻想 「ここなら、条件にぴったりでしょう?」 表情の読めない無愛想な織部だが、声音には何かしら得意げなものが含まれていた。垣内は盛大にため息をついて見せる。 確かに、鄙びた山奥の隠れ家的宿が良いと言ったのは垣内だ。天然かけ流しの温泉で、清流に面した露天風呂もあって、古の文豪が篭って執筆したような風情ある二間続きの和室に、山の幸ふんだんの美味い郷土料理、加えて『目の保養付き』――垣内の場合、「美」と付く青少年のことだが――なら書けるかも知れないと。 但しそれらは実現しないことを前提に出した条件だった。誰も次回作を期待していない、すっかり忘れ去られた感のある純文学作家に、そんな好条件の執筆場所を用意してやろうなどと、昨今の活字離れの傾向にますます営利主義に走る出版社が思うはずがない。新作の書き上がる保障がないなら尚更に。 ――まさか、本当に用意しやがるとは。 宿と温泉はともかく、目の保養はいくらなんでも無理だろうと思っていたらば、宛がわれた部屋の係は女性ではなく爽やかな青年だった。際立ったとは言いがたいが、観賞には充分耐えうる容姿で感じも良い。韓国の何とかと言う俳優に少し似ていることもあり、辺鄙なところにある温泉宿にも関わらず、女性客のリピーターが多いのだそうだ。 垣内は張り出し窓に腰を掛けて、残雪が美しい山また山の風景を一瞥し、織部を振り返る。彼は『目の保養』的部屋係が淹れてくれた熱い日本茶をすすっていた。 「はあ」 垣内はもう一度、聞こえよがしにため息をついた。織部は垣内を見たが、相変わらずの仏頂面で何もコメントしなかった。 好きな時間に起きて露天風呂にゆっくり浸かり、部屋でとる遅い朝食の後は周辺を散策する。小さな 垣内は純文学系と官能・娯楽系の二つのペンネームを持つ小説家である。もともとは官能小説家だったが、ここ数年の創作活動の主軸は前者なので今は書いていない。ただ純文学としてカテゴライズされている著作は、合わせても一冊に編めない掌編数作と、長編が一作。予定された長編二作目の原稿用紙はいまだに白紙状態で、つまりは長いスランプの中にいる。細々と垣内の生活を支えているのは、純文学としての一作が出るまで書いていた官能小説の印税収入と、時折入るエッセイの仕事のみと言うのが現状だった。 織部は垣内が官能小説家として仕事をしていた頃の担当編集者だった。今と変わらず無口で、原稿を催促する時も他の出版社の担当とは違い、書きあがるまで黙っておとなしく待っていた。同じ年だったこともあって最初は御しやすいと見た垣内だったが、その印象は長く続かない。えも言われぬ威圧感を受けるようになったからだ。手を抜いて単調になっていたり、擬音に頼ってばかりすると的確に指摘する。それがどんなに過激な濡れ場でも、顔色一つ変えず音読するのだからたまらない。 「どんな羞恥プレイだよ。恥ずかしくないのか?」 「恥ずかしいのは先生でしょう? いい加減に書いた文章だから、聞いていて恥ずかしくなる。いくらフィクションでも、こんなに喘がせっぱなしじゃ読者も疲れますよ」 普段は口数が少ないくせに、指摘する時は容赦なく饒舌だった。そして文章を見る確かな目を持っていて、垣内が女性に興味がない 「先生の書く女性像はステレオ・タイプ過ぎますからね。色っぽいようで色っぽくないし。相手の男の方がよっぽどエロい」 ――織部、侮りがたし。 ゲイであることを隠しているわけではなかったが、一事が万事、その調子で見透かされるのは癪に障る。以来、織部が文芸誌に移り担当を外れるまで、垣内は締め切りを破ることも手を抜くこともなかった。思えば、織部に乗せられていたのかも知れない。 実は垣内を純文学のジャンルに引きずり込んだのは織部である。彼が担当する文芸誌の代替掌編を引き受けたのがきっかけだった。それが予想外な高評を得て、続けて二本ほど掌編を書いた後、 「女を巧く書けないんじゃ、官能・娯楽小説家として先は知れてる。すでに飽きられているのはわかっているはずです。先生の文章はこのジャンルに向いていない。本来の、書くべきものを書くべきだ」 と珍しく熱心な織部の勧めもあって長編を仕上げた。五年以上前の話である。しかし一種の燃え尽き症候群に陥ってしまったのか、次のプロットが浮かばない。同時にもともと得意ではなかった男女の色事の書き方を忘れてしまって、官能・娯楽小説の世界にも戻れなくなってしまった。今では垣内に原稿を依頼する奇特な出版社は、織部のところくらいになっている。エッセイの仕事も彼が持ってくるものだった。 多分、それも織部の強い押しがあってのことで、上層部の渋い顔が想像出来た。織部は垣内を、そこそこ食べられた官能小説のジャンルから、貯金と印税を食いつぶす純文学へと引きずり込んだことに責任を感じているのだ。そしてまだ信じている。垣内の二作目を。 ――それとも、俺に気があるのか? 今回の宿の払いも、織部が自腹を切っていることはわかっていた。一番ではないにしろ、それなりの部屋への長逗留は結構な出費になる。書けるかどうかわからない落ち目作家のわがままにつきあって、無駄金を使う酔狂な人間がどこにいるだろう。実際、彼の目をそう感じたことは一度や二度ではなかった。 ――だけど、秋波ってほどじゃないんだよな。それに…。 と朝食の膳を下げに来た部屋係を一瞥する。 いくら本人の希望だからと言って、好きな相手のために目の保養を用意するだろうか。もしかしたら『目の保養』のままで済まないかも知れない。垣内が身持ちの堅い方ではないことを織部も知っているはずだ。 ――あいつはどうにも読めない。同類の匂いもしないし。 妙な気があるのではないとしたら、純粋に作家としての垣内を織部は欲していることになる。垣内の二作目をこれからも我慢強く待つと言う表れだ。 条件を出した手前、後には引けなくなったから来てしまった垣内だが、理想的な場所を、期限を切らずに提供されたことと、それにも関わらず一向に書く気が湧き上らない現実が、心に重く圧し掛かった。このまま黙って帰ってしまおうかとさえ思う。そうすればさすがの織部も呆れて見限るだろう。もう彼が垣内の元に足を運ぶことも、あの仏頂面を見ることもない。清々するはずなのに、思うばかりで実行に移せない垣内であった。 「どうかなさいましたか?」 ぼんやりとあれこれ考えていた垣内の視線は、部屋係の青年・市川に留まったままだったらしい。「退屈」と垣内が一言で答えると市川は破顔した。 「御神体の森には行かれましたか? 千年楠は一見の価値ありです」 「二日目に行ったさ。ここの一番最古の温泉とやらにも入ったし」 「じゃあ、源泉を見に行かれては? トレッキング・シューズの貸し出しもしておりますよ?」 「トレッキング・シューズが要るようなとこなんて、遭難したらどうするんだ」 「雪が残っているから履くだけで、道はちゃんと整備されてますから大丈夫ですよ」 「アウト・ドアは苦手です」 垣内は「ああ言えばこう言う」的なやり取りが好きだった。特に見目良い男とのそれは駆け引きめいてゾクゾクする。だんだんと会話を艶っぽい方向に持って行き、最終的には相手を赤面させるか、ソノ気にさせるオチをつけるのだが、残念ながら市川は人並み以上の容姿ではあっても垣内の好みのタイプとは言い難く、従って会話も普通にキリの良いところで途切れた。 聞けば部活はずっと上下関係の厳しい体育会系だったとか。小ざっぱりと襟足を短くした爽やかで礼儀正しい彼は、異性に対しては魅力的かも知れない。この手が好みの同性にも通じる魅力ではある。ただ垣内の範疇にないだけだった。スラリとして見えても筋肉の比率が高く、抱き心地が硬そうなのは楽しくない。 ――それにもっとこう、匂い立つような色気も欲しいよな。 垣内の好みのタイプを織部も知っているはずである。どうせならもう少しその好みに近づけて欲しかったと、ここに来た真の目的が何であるかをすっかり棚上げにして、恨めしく思う垣内だった。 張り出し窓を開けて腰を掛ける。雪解けの時期特有の、春の気配を含んだ冷たいばかりではない大気が、垣内の分けた長い前髪を揺らした。 「お兄様ったら、待って」 「散歩に出るだけだ。ついてくるなよ」 その春の外気に乗って声が階下から上ってきた。垣内は覘くように身を乗り出して、声の方向に目を落す。中庭を横切る少年と少女が見えた。聞こえた会話から、兄妹であることがわかる。先を行く少年は高校生くらい、後を追う少女は二つ三つ下だろうか。鬱陶しがる兄を追いかける妹の姿は、どこででも見られる微笑ましい構図で、取り立てて見入るほどのものではないはすだが、まとわり付く妹を見る少年の横顔が、垣内の関心を引いた。額から鼻、顎に至る稜線がとても美しく、彼の全体像を否応なしに想像させたからだ。せめてもう少し振り返ってくれればと言う気持ちが通じたのか、少年は垣内の座る窓を振り仰いだ。 垣内は息を呑む。 白が勝った象牙色の肌、自らの体温で上気して内側からほんのりと発紅する頬、意思の強さを感じさせる黒く大きな眼、そして一文字に引き結ばれた唇の輪郭にはまだ子供の丸みが残されていたが、鮮やかな朱を帯びた様とのギャップで、ひどく扇情的に見える。それらが形良い面の中に絶妙に配置され、申し分のない美を形成していた。 天井の高い昔ながらの宿の二階からでもわかる美貌が、垣内に視線を外させることを許さない。ただ少年からは庇か何かで遮られているらしく、視線は合わなかった。彼は元に向き直り、少女をまとわり付かせながら去って行った。 「あれは、誰だ?」 垣内は市川を後ろ手で手招きした。市川は下げる膳を手に持ったまま、張り出し窓から垣内の指差す方を見る。 「ああ、藤堂先生のお孫さんのサクラオ君とミズキさんですね」 「藤堂先生?」 「参議院の藤堂議員です」 政治家に明るくない垣内には、名前を言われても顔は浮かんでこない。 「鄙に稀なる美形だな」 「クオーターだそうですよ」 藤堂家はもともと隣町の大庄屋が出自で居館もそちらにあったが、ここら辺一帯が政治的地盤の一部であるので、三男一家が子供達の長期休暇を利用して滞在すると市川は続けた。 二人の子供達は少年が 確かに瑞姫は可憐な少女だ。日本人ではありえない薄茶の長い巻き毛が、歩くたびに柔らかに揺れる。雪の白さと張り合う肌の色も異国めいているし、もしかしたら瞳の色も日本人のそれとは違っているかも知れない。どうやら彼女には外国の血の方が色濃く出ているようだった。しかし所詮、西洋人形的な愛らしい美貌で、まだまだ邪気もない。 それに比べ兄の桜王の妖しいまでの美しさはどうだ。子供から大人に向う過渡期にだけ許された、何とも言えない不可思議な色香がある。同性愛に対する関心が薄い田舎では、一緒にいる瑞姫の存在の方が目を引くのだろうが、都会では同性の目も集めているに違いなかった。 ――目の保養とは、ああじゃなけりゃ。 『この人間の子のそれこそ神に近い美しさに、感嘆した。いや、驚愕したのであった』(脚注1) 「これじゃ盗作だ」 割り箸が入っていた和紙の筒袋に書いた一文を見て、垣内は独りごちた。昼間に見た少年のことを思い出しながら何気なく書きとめたのだが、よくよく見るとトーマス・マンの『ヴェニスに死す』の一節だった。くしゃりと丸めて脇に置き、夕食の刺身を口に運ぶ。 「倒錯は今に始まったことじゃないでしょう?」 向かいに座る織部が、垣内の独り言にツッコミを入れた。 「失礼な。俺は未だかつて盗作なんてしたこっ…、待て、織部、俺が言ってるのは『盗む』『作る』の盗作であって、おまえが想像したのとは違うぞ」 垣内は今丸めた箸袋を織部に投げつける。それが醤油小皿にダイブする寸前に、織部は受け止めた。開いて中を見ると少し関心したような声音で、「書く気になったんですか?」と尋ねた。 「まさか。昼間、理想的な美少年を見かけたんだ」 垣内は藤堂議員の孫・桜王のことを話した。 あれから垣内は藤堂兄妹が向ったと思われる宿の清流に下りた。けもの道に毛が生えた程度の川べりの遊歩道を、さも散歩している風を装って歩き彼らの後を追ったのだが、結局、姿は見つけられなかった。それで宿の人間や、みやげ物売り場の店員にさりげなく藤堂兄妹のことを聞いた。「きれいな子供を二人見かけたけれど」と一言尋ねるだけで、誰もが詳しく教えてくれる。まだ幼児の頃からあの二人を知っているせいか、まるで親戚の子か何かのように、親しげに。 「『さくらお』って『桜の王様』って書くらしい。普通なら名前負けしそうだけど、これがまたよく似合ってるんだ」 「そんなことをリサーチしてたんですか?」 「だって暇なんだもん」 「『だもん』って、自分を幾つだと思ってるんです」 「誰かさんと同い年の三十六歳」 垣内は織部を見やった。ほんの少し、織部の口角がへの字の下がる。 「だいたい、暇なら書いたらどうです? 理想的な美少年も現れたことだし」 理想的な美少年が現れても創作欲をかき立てられるとは限らない。織部が用意した目の保養=市川よりは垣内の好みに近いが、現実離れした存在に過ぎた。現に彼を見て出てきたのは、既製作品の一文。よしんば創作の題材としたところで、一歩間違えば『ヴェニスに死す』の主人公よろしく、あの美貌に引きずられて翻弄されそうだった。 「相手は十六才の子供なんだから、手を出したら犯罪だ」 一瞬、黙りこくった垣内を、織部は探る目で見ている。 「わかってる。俺だってオスカー・ワイルド(脚注2)にはなりたくないよ」 扇情的であると同時に、触れてはいけないものが桜王からは感じ取れた。それは警告に似ている。恋愛の対象としても、情事の相手にするにも年齢的に足りず、その点では垣内のタイプではなかった。しかし彼からその気を見せられたらきっと、拒めないことは想像出来る。うっかり近づいて手でも出そうものなら、どうなることか。破滅はごめんだと垣内は思った。 「あれは目で楽しませてもらうタイプだ。口説くなら市川君の方がいい。寂しくなったら彼に慰めてもらおうかな?」 「それはないでしょう。彼が先生のタイプでないことは知っています」 織部は事も無げに言った。 「わざと?」 彼の意図するところがわかった垣内は右の眉を上げる。 「遊びに没頭されたらここに来た意味がない。なのに伏兵がいたとはね」 織部は箸を置いた。垣内は飲みながらなのでまだ半分も料理に手がついていなかったが、彼はすでに食べ終えている。垣内はビール瓶を手に取って織部にコップを空にするように促した。彼の最初の一杯はほとんど口をつけられないままに残っている。織部は「車で来ているので」とそれを断ると立ち上がり、ハンガーにかかった上着を手に取った。 「なんだ、帰るのか? 明日は休みだろ? 泊まっていけばいいじゃないか」 今からだと帰りつくのは夜中になるだろう。垣内の部屋は、もう一人も二人も三人も泊まることが出来るほど充分に広い。久しぶりに誰かと飲み明かしたい気分だったし、織部から様子を見に来ると連絡をもらった垣内は、すっかりそのつもりでウィスキーを用意していた。市川にも、もう一組、寝支度を頼んである。 「理性がもたなかったら困ります」 「こんな田舎で禁欲してるからって、誰でも彼でも獲って食うと思うなよな。おまえこそ、俺のタイプじゃないっつうの。」 行き場を失くした手のビールを自分のグラスに注ぎ、垣内はぐいと飲み干した。 「知ってますよ」 織部は口元に苦笑とも何とも形容しがたい複雑な笑みを浮かべて、部屋を出て行った。 室温が一挙に下がった感覚。この部屋は、一人で使うには広すぎる。一人は嫌いではないが、久しぶりに誰かと一緒の食事はそれなりに楽しかった。せめて自分が食べ終わるまで待てないのかと、垣内は織部を恨めしく思う。 食事の続きをする気になれず、垣内はそのまま仰向けに寝転がった。 大人の垣内でさえすることがなく退屈しているのだから、都会育ちの兄妹には尚更だ。同じ年頃の少年少女は少なく、いたとしても自分達とは全く異質な雰囲気に気後れして、二人を遠目に見るだけでなかなか近寄らない。それでも社交的な性質らしい妹の瑞姫には二日三日もすると遊び相手が出来、少女期特有の転がる鈴の音に似た笑い声が、時折、垣内の耳にも聞こえてくる。 一方、兄の桜王は相変わらず一人で、気さくに声をかける宿の人間にも、軽く会釈するだけだった。思春期の少年にはありがちな態度ではある。それがそこら辺にいる高校生と違って見えるのは、やはり類稀な彼の美貌によるものだろう。聞けば母方の祖母が英国の貴族に連なる家柄だとかで、仕立ての良いそちら系の上品な服装がまた、いまどきの少年とは一線を画す。国会議員である祖父の国元に滞在するゆえの装いかも知れないが、よく似合って、一層、彼を別世界の住人に見せていた。 ストーキングをするつもりではないのだがすることもないので――織部が聞けば怒るような理由だ――、垣内は桜王を視界に留めるようになった。いや、留めるつもりはなくとも、同じ宿に滞在しているのだから自然に入ってくる。今も大正時代の内装が残る宿の喫茶室でコーヒーを飲んでいる垣内の目には、窓際の席に座る桜王の姿が見えていた。 母親らしき女性と妹の瑞姫が同席している。母親は桜王とよく似ていたが、息子ほどには目を引かない。垣内が異性の美醜に興味がないこともあった。しかし結局、刹那的な美に勝るものはないと言うことだと思った。 ――やばいな、目が合っちまった。 垣内の視界に入ると言うことは、桜王の視界にも垣内が入っていると言える。あからさまに観察するのは避けているにも関わらず、目が合うことがあった。それが頻繁になると、さすがに相手にも見ていることがわかるだろう。同年代の子供にならともかく、年上の、それも同性に見られることを気持ち悪いと思われても仕方がなかった。わかってはいても、垣内は彼を見ずにはいられない。とりあえずは手にした新聞に目を落す振りをした。 ――アッシェンバッハもこんな気持ちだったのかな。 アッシェンバッハとは『ヴェニスに死す』の主人公である。旅先で出会った絶世の美少年・タジオに心を奪われ、やがて破滅していく初老の作家。今の垣内と桜王のシチュエーションに似ている。 ただアッシェンバッハと違う点は、今ひとつ垣内が桜王にのめり込めないところだった。見るのに楽しい対象ではあったが、それ以上どうこうと言う気が起こらないのだ。あれほどに完璧な美を持っていると言うのに。 季節が小説同様、夏場であったら多少は違っていただろうか。宿近くを流れる清流で、彼は水遊びくらいするかも知れない。水着にはならなくても、足首や二の腕を見るだけで充分だ。陽に焼けなさそうな桜王の肌はさぞかし白く、欲情を誘うに違いなかった。 ――でも年齢的にアウトかも。 垣内は子供と恋愛する趣味はなかった。精神的に未発達な相手では洒落た駆け引きや、たとえ一時にせよ燃えるような恋愛に至るのは無理だ。きっと相手のわがままを聞くばかりで、自分は我慢することが多くなって疲れるに決まっていた。それ以前に、犯罪になることがわかっているから歯止めがかかる。 情事の相手とは対等な方が良い。ジェネレーション・ギャップのない年齢で、時には押して時には引く、お互いを探り合いながらの会話。多少、かみ合わなくても、それがまた魅力に感じることもある。いくつになってもわがままを言い易く、かと言って甘やかされてばかりではない。相手の心が思うがままにならなくて切なくなるような、そんな関係を保てる相手。 「あれ?」 そこまで考えたところで脳裏に一人の顔が浮かび、垣内の眉根が寄った。織部の仏頂面だったからだ。「ない、ない」と、浮かんだ顔を脳内から押しのけた。 織部と二人きりになったことは数知れずあったが、一度だって色っぽい気分になったことがない。第一、明らかに自分より重く、抱き心地の悪そうなごつごつした男は垣内のタイプではなかった。 ――禁欲生活が長くなると、ろくなことを考えないな。いい加減、帰らなきゃ。 ここにいても、どうせ書けやしない。現にノート型パソコンを置いた文机の前に、垣内はまだ一度も座っていなかった。当初の目の保養である市川やタジオ少年がごとき桜王が創作の糧には為り得ていない状況で、滞在する意味がどこにあるのか。リフレッシュにのみ徹するつもりでも滞在費の出処が織部では、書かなくてはいけないと言う脅迫概念が心の一隅を常に占めた。そんな居心地の悪い状況であるのに、帰ろうと思わないのはなぜかと垣内は自問する。 椅子を引く音がしたので、垣内は意識を現実に戻した。見ると桜王達が出ていくところで、またしても彼と視線が交錯する。桜王はゆっくりと流すように垣内から目を逸らし、進行方向を見た。意味のない所作であっても、彼にかかると意味ありげに感じるから落ち着かない。さっきの鬱屈とした自問の答えは出る前に消し飛んだ。 桜王は母親と妹とは喫茶室の入り口で別れた。しばらくすると喫茶室の窓から彼の姿が見えた。辺りを散策するつもりらしい。よくよく外に出るのが好きな少年だなと、垣内の目は窓から見えなくなるまで桜王の姿を追う。 「また『タジオ少年』ですか?」 不意に声がかかり、垣内は桜王から目を離してそちらを見た。織部が立っていた。珍しくラフな格好をしている。それで今日が週末であることを知った。彼が陽のあるうちに来るのは週末か祭日だと決まっていた。たいていは夕方になるのだが、今日はまだ『おやつの時間』にもならない。 「こんな時間に来るなんて、珍しいな?」 「早く目が覚めたので」 向かいの席に座ろうとする織部を制し、垣内は立ち上がった。 「だったら付き合えよ。散歩しよう」 「ストーキングですか?」 垣内の思惑はすっかり見透かされていた。 「そうだよ。二人連れの方が怪しまれずに済むからな」 開き直って答えてやる。織部は鼻でため息をついたように見えた。こんなわがままなど聞かなくても良いものだが、織部は黙って垣内の後ろをついてくる。 我知らず口元に笑みが浮かぶのは、垣内自身が意識したものではなかったし、気づいてもいなかった。 「『二十一世紀のタジオ』は、やっぱり二十一世紀の高校生だったってことか。がっかりだ」 手酌でビールを注ぎながら、垣内はため息をついた。 「いまどき、携帯を持たないような古典的な高校生がいるわけないでしょう。 案外、ロマンチストなんですね?」 「作家はロマンチストだって決まっています」 桜王の散歩好きは、実に高校生らしい理由によるものだとわかった。携帯電話が圏外にならないところを探してはメールを送受信していたのだ。山に囲まれたこの辺は電波状況があまりよくない。一応は温泉地なのでまったくの圏外というわけではないが、使っている電話会社によって電波の受信レベルに差が出たり、時間帯によって受信出来る場所が微妙に変わる。桜王は選り良いポイントで、日がな一日と言って良いくらい、メールや電話をしていた。 それだけならまだしも、電話での口調がどこにでもいる高校生そのものだった。紅をさしたように色好し形好しの唇から、声変わり間もない初々しい声で「マジ」だの「むかつく」だの、およそ似つかわしくない単語が羅列された。イメージダウンも甚だしく、百年の恋もいっぺんに冷める勢いだ。 いまどきの高校生が悪いわけではなく、藤堂桜王がいまどきの高校生だったことに垣内はがっかりした。あれほどに美しい容姿なのだから、紡ぎだす言葉も美しくあって欲しかった。 「だいたい、料理は『美味いもの』であって、『やばいもの』じゃないぞ」 更に腹がたつのは、目の前の織部が今日もまたアルコール類に口をつけないということだ。ラフな格好で来ているから、てっきり泊まっていくものだと垣内は思っていた。桜王に擬似失恋し面白くないことこの上なく、いつにも増して垣内は飲みたい気分だったのに、それなのに。 「今日も帰るつもりなんだな、織部?」 「明日、打ち合わせがあるんです。まだ会社勤めをしている新人なので、日曜しか時間が取れないから」 「新しく担当、持つのか?」 織部は頷いた。昨年の竜崎文学賞の大賞受賞者だと言う。垣内も名前だけは知っていた。保険会社勤務の若いOLで、昨今流行りの『美人過ぎる』と冠された新人作家だ。織部がどことなく機嫌良く見えるのは、そのせいだろうか。さっさと引き上げたいに違いない。 ――やっぱりこいつも、普通の男だったってことか。 辣腕の織部がつくことから、会社の期待の高さが窺える。ますます忙しくなって、今までのように担当でもない垣内をかまう暇などなくなるだろう。納得しつつも複雑な心境なのは桜王に失望して気持ちがモヤモヤしているからだ。やはりいつまでもここに居るべきではないのかも知れないと、垣内は思った。 「つきあいの悪いヤツだ、まったく。いいさ、俺は飲むぞ」 垣内はそう言うとコップの中のビールをあおった。 ふわふわと宙に浮いていた垣内の身体は、柔らかなものの上に下ろされた。手のひらがその柔らかなものに触れて、布団なのだとわかった。次に目を開けようと試みたが、瞼が重くてままならない。無駄な抵抗はやめて、垣内はそのまま布団に身を預けることにした。 閉じた目でも暗闇であることがわかる。 ――織部はもう帰ったのかな。 周りは音もなく静かだった。 起きているのか眠っているのか、どちらとも言えない時間の中で、誰かの手が額から頬にかかる垣内の長い前髪を梳き上げた。手はしばらくそのままで留まり、温もりが伝わる。垣内の頭など一掴みするくらいに大きな手だ。こんな風に頭に触れられたのは、子供の時以来だった。垣内は父の手を思い出していた。 その時、唇に温かいものがそっと押し付けられた。知らなくはない感触、自分のそれと同じ形。ただ重ねただけで、一瞬の温もりを残して離れて行こうとする唇――あの大きな手も動きを同じくして離れた。 重かった垣内の瞼は魔法が解けたように開き、まだ間近にあった顔を見た。暗くてはっきりわからない。それにこれは夢の中かもしれない。垣内に確認されることを拒むかのように、顔は遠ざかった。 垣内は咄嗟に手を伸ばし、相手の腕を掴む。 「誰だ?」 その確かな感触に夢ではないことがわかった。 誰何の声に返事はない。垣内は確認しようと身を起こすが、不自然な体勢の為バランスを崩して、布団に向って傾ぐ。相手のもう一方の腕が、そんな垣内の背中を支えた。 闇に慣れた垣内の目が、相手の顔を捉える。 「織部?」 言葉での答えの代わりに、垣内の背中にある腕がピクリと反応した。それは肯定の意味を持つ。垣内は手を彼の首に回し、いっそう引き寄せた。 息がかかるほどに近づいた二つの唇は、もう重なるほかはない。躊躇いがちに触れたところから漣のように熱が、垣内の身体全体に広がった。 どちらからともなく差し入れられる舌先が、互いを求める。回し、回された腕に力がこもる。 ――ああ、やっぱり、ごつごつとした硬い身体だ。 抱き心地の悪い男はタイプじゃない。 抱きこまれるのも趣味じゃない。 しかし湧き上がる交歓に垣内は震えた。抱きしめあい、口づけを交わすそれだけのことで、こんなにも高揚する。その感覚を、垣内は長い間忘れていた。 ――いつから? そうだ、こいつと出会ってからだ…。 身体の快楽を求めて、遊びで付き合った人間は何人もいる。あとくされのない情事は身体の欲を満たしはしても、文字通り、後には何も残らない。しかし垣内は彼らの心まで欲しいと思うことはなかった。常に気持ちは充足していて、恋人を必要としなかったのである。 『充足』はどこから来ていたのか。誰かと一緒にいたいと垣内が思う前に傍らにいたのは誰か。ちっとも優しくないし、辛らつな物言いが癇に障る。会話のどことにも粋を感じず、腹が立つことも少なくない。なのに――なのにそれを嫌だと、垣内は感じたことがなかった。 昼間、喫茶室で頭の中から追いやった織部の仏頂面を引き戻す。垣内が思い浮かべる織部は、いつもそれだ。その彼は今、どんな顔をして、自分に口づけているのだろうか。 垣内は唇を離して、織部を見つめた。目を凝らして彼の表情を見るが、よくわからない。ただ彼の吐息は熱く、垣内と同じに感じていることはわかった。感じていて欲しいと思った。 「ああ、そうか、俺はおまえのこと、好きなんだな?」 織部に回した腕に更に力を入れると、抱き返された。 そうして唇は、 目が覚めると垣内は一人で、昨日の服のまま布団の中にいた。夜のことは夢だったのだろうかとも疑ったが、上掛け布団をはぐって起き上がると自分のものではない、しかし聞き知った残り香がして、さっきまで織部がいたことがわかった。 ――今度こそ帰ったのか? かも知れない。日曜日なのに打ち合わせがあると言っていたことであるし。 垣内は、そろりと唇を指でなぞった。気のせいか少しはれぼったい。唇がふやけるほどに長く、何度もキスをしたことはなかった。キスだけで満たされた気持ちになったのも初めてだった。 ――う、巧すぎる。何なんだ、あいつ。 身体中が熱くなる。織部が帰ってくれていて良かったと垣内は思った。どんな顔をして会えばいいかわからなかった。 言わなくて良いことも言った気がするが、したたかに飲んだアルコールと巧すぎるキスのせいで、ところどころ記憶が飛んで覚えていない。重ねた唇の感触ばかりが蘇って思考の邪魔をするので、垣内は思い出すことを諦めた。 時計を見るとまだ九時にもならない。もう一眠りして、いつも通り風呂に浸かろうと、再び、横になり目を閉じた。 『書けないで、おまえに見放されるのが怖いんだ』 垣内は飛び起きる。欠けた記憶が断片的に戻ってきた。それも最も思い出したくなかったセリフ順に、次から次へと。幸せなキスの余韻で火照った身体は、血の気が引いて一挙に冷える。いくら酔っていたからと言って、何を口走ったのか――もしや、「好き」とも言ったのではなかったか? 「わぁ、わぁ、わぁ」 耳の奥で蘇る声に、垣内は現実の声を重ねて掻き消した。 二間を仕切る襖が開いて、身支度を整えた織部が顔を覘かせる。垣内は目を見開き、同時に赤面した。 「もう帰ったと思った」 それでもとりあえず平静を装おう。 「今から出ます。約束は三時なので」 織部はいつもと変わらない。昨日も彼は飲まなかった。一晩中、交わした言葉もキスも、きっと垣内以上に覚えているはずだ。目の前には茹でだこのようであろう垣内がいると言うのに、腹が立つほど平静だった。本当は何もかもが夢だったのではないかと思えるくらいに。しかし上掛け布団の残り香と、垣内の唇が鮮明に記憶する感触が、夢ではなかったと訴えている。 ――ああ、そうか、きっと織部には覚えていたくないことなんだ。酔っ払いのたわ言につきあったに過ぎないんだろう。織部は…一言も好きだと言わなかったし、俺の言ったことにも応えなかった。 織部から始まったキスは、記憶が曖昧なだけで自分からねだったのかも知れない。そう言うことなのだ、なかったことにしたいのだと、織部が変わらない理由付けをして、垣内は納得した。織部がそのつもりなら、自分もそうすればいい。旅の恥はここにかき捨てて、日常に戻ればいいのだと。 「明日、帰ることにするよ。どうせ書けないから」 垣内は布団から出て立ち上がり、ぼさぼさの髪を手櫛で撫でつけると、大きく伸びをした。 「悪いけど、ここの払いはとりあえず立て替えといてくれるかな? 必ず返すから、請求書を回してくれ」 伸ばした手でそのまま、織部の肩を叩く。二週間も逗留してしまった。どれだけの支払いになるのか、定期預金を解約するしかないか…などと考えると、垣内は眩暈を覚えた。一行も書けなかったばかりか、プロットすら立たなかったのだから、織部に全額支払わせるわけにいかない。それに、借りは作りたくなかった。 ――そう言えば、告って振られたの、久しぶりだなぁ。 好きな気持ちを自覚して、すぐさま告白したのは初めてだった。垣内は笑いを禁じえなかった。 「出来れば、分割で頼むな」 朝の光を伝える張り出し窓の障子戸を開けた。結露で濡れたガラスをセーターの袖で拭って外に目をやる。よく晴れていた。窓を開けると澄んだ山の空気が垣内の髪を揺らした。この前髪を、織部が梳き上げたのが昨夜の『夢』の始まりだったが、あの辺りの垣内の記憶は更に曖昧だ。実際に織部がそうしたのかどうなのかは不明で、これもまた垣内の希望によって作られた記憶なのではと自信が持てない。 「今晩、ここに戻ってきます。明日の朝、出ましょう」 背後で織部が言った。 「明日は仕事だろ? 一人で帰れるさ。駅まで送迎バスが出ているんだし」 「有給を取ります」 「そこまでする必要はない。そんなにしてもらっても、俺は返せないよ。今まで期待させて悪かったな。もう俺に気を遣わなくてもいいから」 相変わらず読めない表情で織部は垣内を見ていた。垣内は笑って見せたが、跳ね返されているように感じる。何を考えているのやら、自分はこの男のどこに惹かれたのだろうと、垣内は自問した。 「返してもらわなくても結構です。書けなくても俺はあなたを見捨てないし、離しませんよ」 「織部?」 「やっと両想いになれた相手を、離す馬鹿がどこにいるかってことです」 張り出し窓に腰をおろしかけた垣内は、織部の言葉に思わず立ち上がる。 「『好きだ』って言ってくれたでしょう?」 一気に顔に血が集まった。よりにもよってそれを言った本人に向って確認するのかと、垣内は織部のデリカシーの欠如を改めて知った。しかしここは狼狽している無様を見せたくない。それでなくてもさんざん醜態を晒してしまった。主導権を常にとられっぱなしだった上に、キスだけで陶酔しきった顔を見られているのだ。いつも通り開き直りで答えるしかないと思ったところで、その前に言った彼の言葉をリピートする。織部は大事なことをさらりと言わなかったか? 「両想い? 何だよ、それ?」 「俺はあなたに惚れてるんです」 「はあ?!」 「初めて会った時からずっと」 「ゆうべは言わなかったじゃねぇか?!」 「今、言いました」 織部はそう言うと腕時計を見た。それから部屋の入り口へと、何事もなかったかのように歩き出す。 襖に手をかけると突っ立ったままの垣内を振り返った。 「不足なら、今夜、じっくりお聞かせします。やっとあなたと飲んで理性の箍を外しても、後悔しないで済むとわかったことだし」 そして笑って、今度こそ部屋を出て行った。 垣内は張り出し窓に座り込む。今起こった一連のことは、まるで現実味がない。織部がずっと自分を想ってくれていたなど、日頃の彼を見る限り、気づけと言う方が無理である。ゲイだったことだけでも驚きなのに、出会った時から好きだったと言われても、俄かには信じがたい。 「だいたい何だ、あの見たこともない笑顔は…」 ジェットコースターのような展開に、左頬をつねってみると痛かった。頬をさする手の小指が唇に触れた。 言葉だけでは信じられないことを、あのキスが証明する。 「お寒くないんですか?」 市川が部屋に入ってきていた。垣内に確認してから、手際よく布団を片し始める。織部とのことを彼に悟られるはずはないが、垣内は表情を引き締めた。 「ちょっと外の空気が吸いたかったんだよ。確かに冷えるな」 窓を閉めようとして、中庭に桜王と瑞姫の姿を見とめた。 その美貌は変わらないのに、桜王に対する垣内の印象はすっかり変わってしまった。神秘的で鮮やかだった桜王は、今は色あせて年相応の普通の少年にしか見えない。美少年と文明の利器は、相容れないものなのだと垣内は結論づけたが、それはあくまでもレトロ好きで機械音痴の個人的見地によるもので、ここに織部がいたなら、あきれた視線を寄越すことだろう。 そう言えば、昨日、織部の機嫌がよく見えたのは、垣内が桜王に幻滅したあたりからではなかったか? ――もしかしてあいつ、桜王に妬いていたのかな? あの織部が、自分の年の半分以下の子供に嫉妬していたのかと思うとおかしかった。 「明日、お発ちになられるんですよね? 藤堂様方も今日お発ちになるので、寂しくなります」 「あの子達も帰っちゃうのか」 瑞姫にまとわりつかれながら歩く桜王。初めて彼らを見た時と同じ構図だ。 藤堂桜王は、自分の中で育てていた恋を知るために用意された狂言回しだったのではないかと垣内は思う。あれほど理想的な美少年であるのに、垣内はついに一言も彼に話しかけなかった。無意識とは言え、その美しさを酒の肴にして織部の反応を見、結果的にその嫉妬心を煽った。そして普通の少年と変わらないことに幻滅して――あの日、突然、視界に現れた桜王は、垣内の恋の自覚と共に消え去ろうとしている。 垣内は桜王の後姿に軽く手を振った。すると初めて彼を見た時同様、垣内の方を振り仰ぐ。桜王からは垣内が見えるはずはなく、垣内からもまた桜王の表情がはっきりわかるはずはない。 しかし彼は―― しかし彼は確かに、誰をも一目で虜にする壮絶に美しい 脚注1:『ヴェニスに死す』トーマス・マン作 実吉捷郎訳(岩波文庫版)より 脚注2:アイルランド出身の作家。十六才年下の文筆家(同性)との男色行為を咎められて収監され、地位も名声も失う。 2010.04.10 (sat) |