[ Moonlight Blue 〜冷たく熱い月光〜 ] 




「あまりいじめたら、余計に嫌われますわよ?」
 近森が髪を押さえながら言った。今夜の席で自分の上司が、必要以上に相手の秘書を構うことに、気づいていた口ぶりだ。
「興味がおありなら、優しくしてあげないと。口説くのはお得意でしょ?」
「簡単になびく尻軽に用はない。それに正攻法は通用しない相手だ、あれは」
 森澤馨の心には、今はまだ別の人間が棲んでいる。優しさだけでは、その存在を追い出せない。あの白皙の横顔に、冷たくあしらわれるのが関の山だ。それに優しさで堕ちるような彼なら、きっと篁の興味は引かなかった。
 一目ぼれを体感したのは、生まれて初めてだった。

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